The Last Detail

旅と治療の記録。

大井川鐡道 part.1

「なぜいまさら大井川鉄道?」

鉄道好きな人ならそう思うだろう。

私鉄ローカル線においてトップに君臨するような路線だし、「関東に住んでいて未だに乗ったことないのか?」と。

 

なんとなくね、乗りたくなかったんですよ。

大井川鉄道蒸気機関車が現役で走っているので、鉄道マニアだけではなく家族連れにも大人気なんだけど、この鉄道マニアとファミリーの大集団がマジで嫌なのよ。

 

どこへ旅に出るにも、人が多いところには絶対に行きたくない。

ディズニーランドなんて行ったら卒倒するし、コミケなんて絶対に気持ち悪くなる。

性格がスキゾイド障害に近いところがあるので、精神衛生的に無理なんだよね。

 

 

今の大井川鉄道(2022/04現在)は、コロナ禍ということもありSLもELも走っていない。要するに、一眼レフを持って群れてる鉄道マニアもいないし、ギャーギャーうるさい家族連れもいない。最高じゃないか。大井川の大自然を孤独に列車で旅ができる。

 

残念なことに東京のコロナ感染者も低下し、アメリカではマスク着用を義務づける州が議会の手で消し去られた。

 

駅前の繁華街がキャバ嬢と泥酔した会社員で溢れ、連休の田舎に大量の東京ナンバーの車が押し寄せる悪夢の日々が再開されようとしているのだ。

 

「このタイミングで行くしかない」と思った。

 

 

 

4月某日早朝、俺は新東名の静岡SAで朝を迎えた。

新東名が好きだ。俺は新東名を愛している。免許を取って車を買い、初めて自動車で大きな旅を計画した時、当時開業直後の新東名に乗った。

 

高校の友人達と決行した旅は壮大で無謀なもので、「日帰りで滋賀と京都に行き、アニメの聖地を訪れてそのまま帰ってくる」というものだった。

(結果、運転を交代しながら28時間で帰還)

 

設計速度140km/hという画期的な高速道路である新東名が開通したからこそできた旅だった。

当時はまだ御殿場ー浜松間の開業半年後で、道路はピカピカだし、IC合流のLED照明も画期的だったし、SAは巨大で娯楽施設も沢山ついていて感動したのを覚えている。

 

アニメ好きなら誰でも知っている場所

今も伝説として語り継がれるこの過去の旅については、いつか紹介しようと思う。

 

 

 

さて、前回の北海道の旅が終わってまもなく、予定通り抗がん剤の治療が始まった。

当初から3、4か月の予定だったのだが、身体の負担も大きいということで明後日の投与で一旦終了ということになった。

 

骨髄抑制の影響でだいぶ貧血気味だし、この記事で初公表するが腎臓の近くの静脈に血栓が見つかり、服用薬で改善が見られたので入院は見送りになったのだが、血がサラサラになる薬を飲んでいるので、傷ができると骨髄抑制により白血病等が減少しているので治りにくい上、血がサラサラで水っぽいので多量に出血しやすい。貧血は身体も疲れやすくなるし困っている。

 

 

まあ、そんなことはどうでもいい。島田金谷ICで久々の新東名を下りて新金谷駅に車を駐めた。料金は一日千円。

この駅から列車に乗り、大井川を列車で北上していくのだ。

 

島式ホーム。

 

いいよな。

早朝の無人のホーム。

塗装の剥げた旧型客車。

風情しかない。

 

 

 

鉄道会社は困るのだろうが、俺はやはり閑散とした駅のホーム、自分しか乗客のいない列車が好きだ。

 

 

本線の終点、千頭駅へ向かい、そこから井川線に乗り換え終着の井川駅へ向かう。

そこに意味なんてないし、目的もない。

井川駅に着いたところで、何もやることなんてない。

目的がある旅に何の意味があるのか?

どこか遠くへ行って、自分の人生から脱け出したいんだ。

俺の旅は、仏教でいう出家に近い。僧侶と違うのは、俺は帰らなければならないということだ。

 

 

乗車した。

 

俺は通勤でも旅行でも、最後尾の端っこに座るのが好き。

見知らぬ他人に挟まれて座るという行為がもう無理。その席に座りたくない。

だから都内の電車に乗って席が空いてても座らないことが多い。

 

外食でも端っこの席を選ぶし、高校の教室の席も前方の角の席でとても気に入っていて、俺のクラスだけHR委員長(自分)の権限で担任と結託し3年間席替えをしなかった。3年間も俺にHR委員の席に居座られ続けた同級生はたまったもんじゃないだろう。

 

朝は曇天模様だったが、次第に晴れ間が差し込む。

 

昔は電車に乗ると当たり前に見かけた丸いつり革も、最近は首都圏で見かけなくなった。

 

 

千頭駅に到着。
昭和33年に製造され南海高野線で走っていた21000系。

大井川鉄道で余生を送っている彼が新金谷駅から運んでくれた。

 

 

隣のホームには留置されている機関車トーマスが3両。

大井川鉄道の蒸気への愛情は並大抵のものではない。

 

ここから井川線に乗り換えることとなる。

 

※次回へ続く。