出雲旅その④境港と水木しげるの街
港が好き。
田舎の、少し閑散とした港。
ここは境港。境港駅から歩いて5分ほどだろうか。駅から港が近いというより港の横に駅があるという表現が適している。
ここ境港からは隠岐の島へ向かうフェリーが発着している他、漁港や海上保安庁巡視船の拠点としても使用されているようだった。
丁度、隠岐の島への連絡に使用されるジェット船だろうか、給油を受けていた。奥の方では海上保安庁の巡視船にブザーが鳴り乗船する保安官が一斉に出航準備を始めている。海保の立派な制服を着ながら無表情で、無駄な動きもなく淡々と職務に励む彼等を見ると病弱な自分は色々な嫉妬をしてしまうものの彼等の航海の無事を祈るばかりだ。
少年時代を境港で過ごした水木しげる。街のあちこちに鬼太郎のイラストやら像やら飾られていて、もはや街の勇士になっていることが伺える。
港の対岸に見える山々は美保の北浦。ドライブで海沿いを走ると絶景を楽しめるらしいが、鉄道バス徒歩のみに縛る「丁寧な旅」を実践する者には無縁の贅沢というものだ。
いずれにせよ戦前戦時中、漁港街でしかなかった風光明媚なこの場所で育った水木しげるは美味しい魚介を食べながら幸せに育ち、それが過酷なソロモン戦線での従軍を生き残る精神的な糧になったのだろう。
以前Kindleで水木しげるの従軍手記を読んだ。作品としては鬼太郎が有名だが元々は従軍経験を元に戦記物を多く描かれていたそうで、自身の経験に忠実に描かれたストーリーもあれば、経験を元に作られたフィクション戦記もある。鬼太郎からは想像できない生々しさがあって、軍拡に勤しむ現代の中国人やロシア人に是非読んでもらいたい作品だ。
港から少し歩いて商店街に合流し歩いて数分。目的地の水木しげる記念館に辿り着く。
のんびりと散策したいものだが、この後の松江への移動の為に乗る路線バスの発車まで1時間ほどしかない。手早く見学することにした。
博物館や美術館の展示品をパシャパシャ撮ってSNSやブログに沢山載せるのはあまり好きではないので、興味があれば現地へ足を運んでみてください。
水木しげるの著書も読んでみるも結構面白い。妖怪物よりもシリアスな作品の方がお気に入り。
どうも写真ばかりの記事になってしまった。
水木しげる先生本人も何回も記念館に訪れていたらしく、何ヶ所も直接壁に直筆で鬼太郎のイラストやサインを描かれていたり、常設展の他に特別展があったり、従軍中に使用していた私物やら、作品を描く為に使っていたペン類やら、作品だけでなく水木しげるという作家の生涯の集大成を飾る記念館といった印象だった。
記念館前や商店街は閑散としている印象だったが記念館内部はそれなりに混雑していて、子供より大人が多い印象。水木しげるの戦地でのエピソードは凄い。凄すぎて話にならない。俺には真似できない。戦場に至っても笑うことと食べることしか頭になかったからこそ生還できたのだろう。戦場で片腕を失っても作家の道を諦めずに自分の人生を生き切っていく姿には障害者や病人も共感、尊敬するものが多いと思う。
11時40分。予定通り、米子駅行きの路線バスに乗車した。