The Last Detail

旅と治療の記録。

大井川鐵道 Part.2(井川線編)

 

大井川はかつて豊富な水量を誇っていたが、南アルプスにおける新幹線建設や東名•新東名高速のトンネル建設により湧水が出水し、川の水量が減ってしまい、今や大井川下流の水量は風前の灯となっている。

 

 

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このように、下流域は砂利だらけで、川が中央を細々と流れているだけ。この広大な川幅は数百年前の大井川の豊富な水量を物語っている。

 

しかし、意外なことに、大井川の水量が豊富だった江戸時代、幕府はこの大井川における舟運を認めなかった。徳川幕府による「船を通すな」というお達しである。

 

当時、発展し続ける江戸では大量の木材需要があった。その木材の多くを、幕府は大井川上流の南アルプス大自然に求めた。

大井川上流で森林を伐採し、伐採した木材を大井川に浮かべてそのまま下流へ流してしまう「川狩り」が行われ、川幅の狭い上流では木材を川幅一杯に溢れんばかりに流したといわれる。川狩りの材木だらけで船が通るのは危険すぎたのだろう。

当時伐採された材木は、江戸城本丸だけではなく上野寛永寺にも使用されたらしい。

 

 

明治になると、日露戦争を契機に日英同盟が締結されイギリスの機械技術が輸入され、大井川上流では水力発電が行われるなど、大井川流域の開発が始まる。森林鉄道による材木輸送が計画されていくのだ。

 

昭和初期には計画が実現して森林鉄道としては全国最大規模を誇った千頭森林鉄道が開業し、伐採された材木や発電所やダム建設の為の資材輸送が始まる。

 

千頭駅を拠点に、そこから上流に向けて何本もの森林鉄道が建設され、その線路はさらに枝分かれし、南アルプスの奥地を目指し続けた。

 

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「その経営規模は極めて大きく、昭和44年度の予算規模は約11億5千万円と全国350署中の一位を占め、日本における表街道である東海道筋にそのようなマンモス署が存在することは特異なことといえる。」

 

「地形は早壮年期~満壮年期で浸食作用がはげしく、起伏量が著しく大きい。そのため崩壊の規模が大きく、河川の谷壁部は急斜をなす。傾斜は河川沿い部分は40°以上、中腹の部分は30°~40°、山頂近くは10°~30°となる。標高は、300m~2591mとその差が著しい。」

 

昭和46年版「千頭営林署管内概要」

 

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1935年に千頭 - 大井川発電所を結ぶ大井川専用軌道が開通。

 

井川林道が開通し、昭和33年を最後に川狩りは行われなくなった。道路整備の発展により、輸送手段はトラックに代わり、森林鉄道は役目を終えた。千頭森林鉄道は昭和44年に全廃している。

 

しかしながら大井川上流のダムや発電施設を支える為、中部電力所有の森林鉄道は今も残されている。この地域に唯一生き残った森林鉄道。それが、この日に乗車した大井川鉄道井川線である。

 

 

前置きが長くなった。前回の記事の続きを書いていこう。

隣のホームが「井川線」である。

レール幅は通常の在来線と変わらないが、列車は戦前の小さなサイズの素掘りのトンネルを抜けていくので、機関車も客車もかなり小型。

 

ディーゼル機関車が後押ししていく。

客車内は狭い。

自動改札なんてものはない。改札で駅員が検札するか、車内で車掌が検札する。

 

あと、駅に到着しても自動扉ではないので、自分で鍵を開けて横扉を開けなければならない。開けっ放しで発車しないように、発車の都度、車掌が先頭車から後尾車まで全力疾走で戸閉めを確認していく。車掌は汗だくである。

 



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↑ 動画はYouTubeにアップした。

 

点在する集落を超えて少しずつ山間部へ登っていく。

 

 

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アプトいちしろ駅では後方に補助機関車を連結し、アプト式レールで急勾配を登っていく。90.0‰(1000m進むと90m登る)の急勾配を補助機関車が後押ししていく姿は勇ましい。席に座っていても勾配を感じる。

 

 

5分ほどの停車時間は下車して吊橋などを見学できる

長島ダムに向かっていく。

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長島ダム駅で補機を切り離す

 

井川線の一部はダム建設の時に湖底に沈んでおり、現在のアプト式区間などは新線の区間である。

線路、駅、橋、隧道といった遺構の多くは湖底に眠っており、満潮でなければダム湖へ沈んだ旧線や鉄橋が干上がり、車窓から眺められる。

 

隧道と線路が見える。

 

旧線の橋梁。

 

 

途中、線路上の落石を取り除くための一時停車したり、車窓から動物が見えたり、のんびりと列車は山を登っていく。井川線の最高速度は30km/h。時間を忘れ、生活を忘れ、車窓から南アルプスの山肌、不気味なほど水色な大井川の川の艶を眺めながら、圏外となったスマホを座席に放り投げる。

 

私の乗っている客車の隣はディーゼル機関車だったので、隧道内ではディーゼルの排煙が車内に舞い込んでくる。

スマホと新幹線の時代。

「忘れ去られたかつての旅」がここにはあった。