生まれて初めて北海道にきた 〜末期癌告知から旅へ〜
末期癌と言われた。今年の11月のことだった。
定期検査でPETを撮って、「9月に退院したばっかだし何もねーだろ」と早く家に帰りたい気持ちしかなかった。早く帰ってゲームやりたい。SKEの劇場公演の配信も観たい。
院内PHSが鳴り病室に入って、もう、入室してすぐわかる。
先生のPCに撮影画像映されてるし。肺の一部分に異常を示す黒丸書かれてるし。
他臓器に転移したということはステージ4。
「それって末期癌ってことですか?」って主治医に聞いたら
「ステージ4だからそういうことになりますね」って。
その後数日は仕事中も呆然としてた。
気持ちに折り合いつけられないじゃん?
でもさ、今年さ、2回入院して、1回手術して、3週間毎日1日中抗生剤の点滴打ち続けて、通院で43回放射線治療やって、職場で国家資格2つ取ったし、俺さ、だいぶ頑張ったと思わん?
医療費も馬鹿みたいにかかった。医療費を決済し続けたクレカのJALマイルは3万マイルに近づいている。ハワイまで片道タダで行けるじゃねえか!
自分に御褒美あげてもよくない?
スマホでオミクロン株のニュースを見ながら俺は思った。
「そうだ、北海道へ行こう。」
マスコミに贈収賄が発覚した保守系政治家がいつの間にか入院してマスコミから逃げ切るような光の速さで航空券を予約し、ホテルを確保し、青春18きっぷを買った。
青春18きっぷを買うのは初めてだ。約1万2千円払えば5日間、JR全線の普通快速自由席なら乗り放題。魔法だ。
駅の券売機に1万2千円入れたらお釣りが出てこない。なぜだろう?やはり魔法だ。
そして昨日、仕事を颯爽と納め、秒でタイムカードを切り、一晩で旅装を整えて今朝、羽田に向かった。
保安検査場を抜け、椅子に座りながら朝焼けに照らされる鶴丸の機体を眺めていると、空港で誰かが俺を呼んでる。
アナウンスだ。大音量だ。羽田第1ターミナルに響き渡っている。俺の名前をフルネームで呼びやがる。恥ずかしい。やめろ。〜様と呼んでるから許してやる。
「俺は客だ。俺の方が偉いんだ。」と心の中で念仏を唱えながら呼び出された搭乗口へ向かい、預け荷物にリチウムバッテリー(急速充電器)を入れてしまったことを平謝りし、バッテリーを受け取って何食わぬ顔で機内に搭乗した。なぜ鞄を開けずに荷物の中身がわかるんだ?やはり魔法だ。
上空から見た女満別は一面の雪景色。何もねえ。
空港路線バスから網走監獄へ向かうバスの車窓は一面の雪景色。何もねえ。
昼飯に訪ねた網走市内のラーメン屋は店主のお婆ちゃんが客のオバちゃんとお喋りしながら作ってんだけど、お婆ちゃん逹の唾が沢山入ってそうな味噌ラーメンがめっちゃ美味かった。お婆ちゃん1人で切り盛りしてるのにお客さんがそれなりに入っているのも納得の味。焼豚が最高なのよ。厚みがあるんだけど、肉の風味が「肉ッ」って感じで。700円とは思えない。魔法だ。
オホーツク海は大荒れ。我々は海神の怒りに触れたようだ。
駅前のトレンタくんで借りた車で行ったサロマ湖は凍りついていた。都会育ちの俺にはなぜ広大な湖が凍っているのか理解できなかったが、これも何かの魔法なのだろう。
雪の中のドライブもスタッドレスタイヤのお陰で快適。魔法だ。大雪なのに車が滑らない。
あちこち意味もなく寄り道してしまった。
夕方の網走駅は大雪で美しいが、その風情を小太りの撮り鉄共がいい感じにぶち壊していた。魔法で撮り鉄を排除したい。
妹にLINEで写真を送ったら
「なんで灰色の景色ばかりなの?楽しいの?」と聞かれた。
此奴は何も理解していない。
上記で証明されたように、網走は魔法の国だ。
つまり網走はディズニーランドだ。
網走市内
網走監獄。戦時中に脱獄に成功した囚人がいたらしい。魔法だ。
サロマ湖。この美しさは魔法だ。
オホーツクの美しさに魅せられてしまった。
明日は旭川へ向かう。
旅は始まったばかりなのだ。
旅の疲れか癌原発の右脚がめちゃんこ痛い。処方された痛み止めの麻薬3回キメて少し楽になった。