The Last Detail

旅と治療の記録。

天人五衰

2/3月曜に2度目の手術をした。

リンパ節郭清。

局所麻酔で意識がある状態で手術した。

 

手術数日後、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という感染症に罹っていることがわかり、院内感染委員会の指示で個室に移動された。

最初は個室の入院費用が心配だったが、婦長さんに確認したところ、病院都合の移動のために差額無料と言われ安心した。

MRSAの個室移動は自分の為というよりかは、看護師を媒介して他の免疫力の低下した患者に感染させないようにする為だとハッキリ言われた。

 

MRSAを治す為に副作用が起きやすい点滴を数日打ったんだけど、初回は速攻で副作用が起きて、全身の痒みが止まらず散々だった。

 

その後はリハビリの日々。

2/17に退院。

その後は経過観察で通院を繰り返している。

退院翌週に抜糸。

3月は上旬と下旬に通院しリンパケア等の経過観察をした。

明後日にPET-CTを受けて経過観察をする。

5月上旬から再び原発付近に痛みを感じていて、転移しているんじゃないかと心配している。

 

ブログは退院後、書けなくなった。

入院中のことは思い出したくない。

最初は記録のつもりでこのブログを始めたんだけど、書かなければよかった。

20代なのに、ほぼ同い年の女の子(看護師)の助けがないと一切何もできない。

男性としてその悔しさというか、屈辱感というか情けなさというか恥というか、ただそこに物凄い感謝の気持ちがあって、複雑で、どう言葉にしたらよいかわからない。

 

職場に関しても、複数の労働組合があるのだが、その中でも一番信頼のおける(=会社とバッチバチな)組合で活動させて頂いていたのだが、組合は勿論、営業所の職員の方々も傷病手当や高額療養費のサポートを積極的にしてくれたし、シフトも融通を利かせてくれた。所長はお見舞いにきてくれたし、組合の幹部もお見舞いにきてくれた。ただただ、情けない。営業所の職員も会社と敵対する組合員のことなんて助けたくないのが本音じゃないか?僕はそう思う。けれど助けてくれたし、本当に情けなく恥ずかしくなった。

 

この病気に罹って、自分自身で、自分自身の本当の姿を直視したし、その自分自身の姿はとても情けなく、恥ずかしいものだった。

 

 

自分の体が弱いのは薄々気づいていた。

特に2018年の後半くらいから、少しずつおかしくなっているのは気づいてた。

発熱する頻度は増えたし、2019年の夏以降はとても疲れやすくなって、右足はなんかしんないけど痛いし、平熱は37°のまま下がらないし、夜勤職をしているけれど、朝は全く仕事にならなくなった。仮眠したらもう目覚ましをかけても起きれない。もっと早く病院に行くべきだった。自分の若さを過信しすぎた。

 

通院している癌研の資料では、希少癌である類上皮肉腫の症例患者は約20例程度しかなく、5年後の生存率約75%。

他のネット記事を読む限り、10年後の生存率55-60%。

将来、いつかは原発である右足の切断をするんじゃないかと心配しているけれど、覚悟はしている。

原発腫瘍2cm以上だと、予後不良(転移再発)の確率が高くなると記事を見た。自分の原発は2cm程度ある。

 

今日は少し贅沢をして、梅雨に入る前に、MINIのクロスオーバーを借りて伊豆に一人でドライブに行った。仁科峠の西天城高原からの絶景が昔から好きで、隼(バイク)を所有していた時はよく伊豆に行っていた。今日、初めて黄金崎で三島由紀夫の文学碑を見た。ちょうど今、三島由紀夫の豊穣の海の第二巻を読んでいて、タイムリーだった。山中湖の三島由紀夫文学館に昔2回行っているけれど、時間があるなら今年再訪したい。

 

僕は「言葉が命」であるなら「本には神が宿る」と考えていて、本に神が宿るならその装丁は美しくあるべきだと思う。その考え方は三島由紀夫から学んだところが大きい。三島は初版本の装丁にはとてもこだわっていて、実際、本当に美しい。そういった理由で、大衆作家にありがちな安っぽい装丁の新刊本は、どんなに有名な作家の本であっても指で触れることにすら嫌悪感を覚える。

 

金閣寺」や「仮面の告白」の初版はプレミアがついていてとても買えないが、数年前、たまたまオークションで豊穣の海の初版装丁を全4巻安く買えた。安いと言っても1万以上したと思う。最高に美しい。過去に300冊は本を読んだが、過去に所有した本の中でも、その装丁は最も美しい。

豊穣の海の最終稿を書き終えた当日に三島由紀夫は市ヶ谷の自衛隊駐屯地に乱入し、三島事件を起こし、切腹している。豊穣の海は第3巻までしか読まないつもりでいる。最終の第4巻は自分が人生の最後に読む本にする。4巻のラストだけはネタバレで知ってしまっているのだけれど、ラストがとても好きで、今後の自分の病気の経過を鑑みて、最期を覚悟する日まで4巻は開かない。

 

『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の全4巻から成る。20歳で死ぬ若者が、次の巻の主人公に輪廻転生してゆくという流れとなり、仏教の唯識思想、神道の一霊四魂説(人の魂は四度輪廻する考え)の影響が強い。その中に三島由紀夫が生涯葛藤した226事件の反乱将校、神と人(戦前の天皇と国民の関係)、宮中某重大事件血盟団事件、そして敗戦の日の強い夏の陽射しの情景の要素が織り込まれている。

 

三島は最終の4巻「天人五衰」の取材の為に駿河湾(清水港)を訪れている。

だから今日、駿河湾が一望できる西天城へ行った。

 

 

入院中の話は今後一切しない。

個室から見えた美しい夜景と、毎晩響き渡る点滴の輸液ポンプの警報音を一生忘れない。

 

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